ユーリィ・アントノフ

 

 『コズミック・ゲーム』登場。連邦軍情報部の大尉でミゴール将軍の部下。将軍の一人娘リアンナのボーイフレンドでもある。いかにも真面目でさわやか、紳士的な好青年だが、実はバレンシュタイン大佐の指示で将軍を監視、リアンナとの交際も任務のうちだった。

 これ、〈直接の上司はバレンシュタインで、さらにその上司であるミゴール将軍を見張るよう命じられた〉のか、それとも〈バレンシュタインは直接の上司ではないが、将軍の部下である点や才覚を買われて情報部部長のバレンシュタインに声をかけられ、本来の業務とは別にスパイ任務を与えられた〉のか、あるいは〈もともとバレンシュタインの部下だったが、ミゴール将軍監視のために将軍の下に配属替えになった〉のか。ロックに正体を知られた後のアントノフ大尉が「それが情報部のやりかたなんだ 情報部員は人間じゃいけないんだ!」と話してるところからすると三番目が一番ありそうだ。最初のほうでバレンシュタインに「君のところでエスパーを捜しているとはしらなかった」と言っているあたり、ミゴール将軍は情報部の人間ぽくないしなあ。

 しかし「情報部員は人間じゃいけない」というが、後にバレンシュタインの後をついで情報局長官になったリュウ・ヤマキはこんなスパイ任務をやったりやらせたりするようには到底思えない。バレンシュタインもヤマキはそんな柄じゃないと踏んで彼にはこの手の任務を請け負わせなかったものか。まあアントノフ大尉だって向いているようには思えないけれども。リアンナにもミゴール将軍にもある程度読心のできるロックにさえスパイと気取らせなかった(ロックはやたらと人の心を読む=プライバシーを侵害するような人ではないが、大尉が怪しい言動を見せていたならリアンナ親子と自分の身の安全のために彼の思考を調べて正体に気付いたはずだ)点は優秀といえるが、ミゴール家を監視しながらその家にバレンシュタインの〈探し物〉があるのに気付けなかったわけだから、その点もバレンシュタインの減点対象になったかも。

 リアンナに「君はロックを 愛している」と話した時点で、彼はすでにロックがエスパーだと知って(バレンシュタインから知らされて)いたのだろうか。タイミング的には微妙なところだが、知っていたとすればリアンナの好きな男が「人間ではない」ことを知りながら、リアンナ自身も自覚していない彼女の恋心を指摘しただけで「ロックのことはあきらめた方がいい」的な忠告はしなかったことになる。任務上ロックがエスパーだとバラすわけにはいかなかったかもしれないが、リアンナに恋を自覚させた分だけロックが有利になる、敵に塩を送るような形になってしまったわけだ。監視対象であるリアンナを本気で愛してしまったがそのために情報部をやめるつもりはない、ロックにジェラシーを感じはしても自分がリアンナとどうこうなる気がない以上二人の間を裂こうとは思わない、ということなのか。なぜか大尉には、エスパーが相手ではリアンナは幸せにはなれない、彼女自身のために早く諦めさせるべき、といった視点が不思議と感じられないのだ。

 それはディナール行きを言い渡されたあとにミゴール邸のそばでロックと話すシーンにも表れている。つい先日襲撃に失敗したうえ顔を見られてしまった、何体ものロボット兵をたやすく倒してのけた、しかも自分の心を読むことさえできるらしい――そんな相手を前にしながら彼はさほど怖れる風もなく冷静に話し、リアンナを託すような言葉さえ口にする。もっとエスパーの存在が一般化した時代ならともかく、エスパーの存在が半分絵空事のように思われている、エスパーに馴染みがないからこそ彼らの力を目の当たりにした人間はエスパーを化け物のように感じてしまうこの時期に、実際に能力の程度を見ているにもかかわらず存外恐怖感が薄い、化け物扱いする気配がないのは、ロックの正体を知った直後のリアンナの反応と比べて驚くべきことだ。そういえば心臓を打ち抜いたはずのロックが起き上がってきたときのバレンシュタイン大佐も特に驚きも恐れもしていなかった。最初からこの程度で死なないと見越していたからこそ撃ったのだろうが、ああもあっさり目の前で起き上がって「腕ごとふきとばしますよ!」などと脅されても平静を保っている。ロックには実際にそれができるだけの力があるとわかっているのに。バレンシュタインはロック以前にもレイザークに対抗できるエスパー探しをやってきたから(ロックには遠く及ばない連中ばかりだったようだが)、彼も彼の下の情報部員もエスパーという存在に多少は免疫があったのかもしれない。

 彼は死刑宣告に等しいディナール行きから、ロックが彼を気絶させて宇宙船を奪ったおかげで救われる。これはロックがディナールを目指そうとした時にたまたま彼の船が離陸直前だったからだが、ロックが大尉からディナール行きが死の任務だと聞かされていたことを思えば、彼の船を奪い置き去りにしたのは大尉を生かすためにそうした面も大きかったろう。リアンナを頼むと言われたのに対し、自分はもう嫌われてしまったし大尉こそリアンナを守ってやってくれというニュアンスもあったのでは。

 そして実際に大尉はリアンナをかばって命を落とす。以来リアンナは彼のために何かしてあげたいと、残り少ない命をふりしぼって軍に勤務するようになる。つまりリアンナは彼のために生きている。ロックが訪ねてきてももうかつてのような愛着を見せることはなかった。いわば大尉は命と引き換えにリアンナの心を手に入れたのである。

 

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